こころの科学リサーチセンター塩坂センター長の共同研究論文が、「Synaptic taggin and Capture」(Springer社)に掲載されました。
Ishikawa, Yasuyuki, and Sadao Shiosaka. "Kallikrein 8-Dependent and Independent Synaptic Tagging and Modulation of Long-Term Potentiation: A Quest for the Associated Signaling Pathway (s)." Synaptic Tagging and Capture: From Synapses to Behavior. Cham: Springer International Publishing, 2024. 179-193.
カリクレイン-8 (別名:KLK8、neuropsin)はタンパク質を切断する酵素で、脳の特定の領域(海馬、扁桃体、前頭前野、脊髄など)で発現しています。特に、シナプス可塑性や学習、記憶に関与することが示されています。カリクレイン-8は、神経伝達物質受容体やシナプスの構造(タンパク質からできている)を変化させることで、シナプスの長期的な変化をサポートします。この論文は2024年発行されたSynaptictagging and Captureという本の中に掲載されております。この本のタイトル「シナプスタギング (synaptic tagging) 」とはシナプス可塑性のプロセスの一部で、特定のシナプスが持続的な変化を受けるために必要なタグ(目印)を設定するメカニズムです。このメカニズムは、シナプス特異的な長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)といったシナプス可塑性の現象に重要です。タグは、後で到着する特定の遺伝子発現によるシナプスタンパク質を認識し、そしてシナプス内に取り込まれる(つまりCapture)ことでそのシナプスに持続的な変化を引き起こします。この目印の形成・修飾でカリクレイン-8は重要な役割を担っております。例えば、カリクレイン-8がニューロンの細胞外マトリックスを改変し、シナプス周囲の環境を変えることで、特定のシナプスがタグを獲得しやすくなる可能性があります。これにより、そのシナプスが特定の記憶や学習の痕跡として持続的な変化を受けやすくなり、前後に作られた記憶と統合するなどの役割を果たすと考えられております。